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校内模試が終わった。夏由はそれなりに手応えを感じたが、結果が分かるのはひと月後だ。なんとはなしにそわそわした雰囲気の中で、体育祭の練習が始まった。運動が得意ではない夏由は、全員参加であるクラス対抗の大縄跳びで足を引っ張らないか不安だった。去年は練習中に何度も足を引っかけてしまい、クラスの雰囲気を壊してしまった。それを励ましてくれたのが悠翔だったことを思い出す。
それまでも挨拶くらいはしていたが、このことがきっかけで話をするようになったのだった。
「大丈夫だって。最後は出来るようになって結局3位に入ったじゃん」
縄の横に一列に並ぶとき、夏由の後ろに立った悠翔が軽い調子で話しかけてきた。
「そうだったっけ。失敗ばっかりだった気がするけど」
「時城は細かいことをウジウジ考えすぎなんだよ」
前に立つ彦田が振り返って言う。
「回すよー」
端で縄を持つクラスメイトが大声を上げた。一度軽く縄を振った後、頭上を大きく回る。夏由は跳ぶタイミングを計った。
「いーち」
全員が声を揃える。上手く跳べた。
「にーい、さー……」
一安心した夏由だったが、三回目で足を引っかけてしまった。残念なムードが漂う。
「最初だしな」
落ち込む夏由に、悠翔がポンと肩を叩いた。
六月最初の金曜日、体育祭当日。
大縄跳びは、練習では二十回以上跳ぶことが出来なかった。そのことが気にかかって、夏由は憂鬱な気分で登校した。このままでは最下位になりかねない。七クラス中で真ん中の四位でも、三十回以上は跳ぶだろう。
選手宣誓やラジオ体操を終えると、校庭の端に椅子を並べた応援席で出番まで待機する。校門近くの保護者席には五十人ほどの父兄が立っていた。
何競技かあって、悠翔が出場する100m走が始まった。目立つ競技だけあり、スポーツが得意な生徒が多く出場している。
「がんばれー」
「岡田ー、しっかりなー」
彦田たちが応援の声をあげる。運動部が多いレース。スタートで悠翔はやや出遅れたように夏由には見えた。
「岡田、頑張れ」
目の前に来た悠翔に、夏由も声を掛ける。カーブにさしかかった。
並んだ、と夏由は思った。
僅差ながら、悠翔は一位だった。
「おつかれ」
席に戻ってきた悠翔に、鳴澤が声を掛けた。
「ん、ただいま」
汗を拭きつつ椅子の上に置いてあるペットボトルを取る。入れ替わりで、夏由は自分の出番である障害物競走の集合場所に行くために立ち上がった。首に掛けていたはちまきを巻き直す。
「応援、ありがとな」
一息ついて座った悠翔が話しかけてきた。
「お前も頑張れよ」
「うん」
憂鬱だった体育祭だが、夏由は少しだけ楽しい気分になってきた。