ひとしれずこそ2章

17 図書館

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 中間考査後の個別面談が終わった。
 他の生徒が希望の進路に向けた具体的な相談をするなか、夏由は、未だに進学先の選択が出来ていないことを叱責されるだけの時間となった。後日、保護者を交えての相談をすることになり、憂鬱な気分で相談室を出た。
「早かったな。どうだった」
 教室にたむろしていたクラスメイトの輪から外れた鳴澤が、気軽な調子で聞いてくる。
「真面目に考えろって」
「お前、まだ何も考えてないのかよ」
 呆れた口調になった鳴澤は、鞄を取りに自分の席に向かった。
「まあ俺には関係ないから良いけど。それより図書館行くだろ」
 十二月に行われる修学旅行のための事前学習をしなければならない。夏由は、鳴澤、彦田、松本と同じグループで、琉球王国について調べることになっていた。
「ついでに旅行ガイドも見ようぜ」
 班ごとの自由行動での行き先も、あと二週間で決めなければならないのだ。

 図書館は、学校から十五分足らずの場所にある。
 夏由たちは、先に来てグループ学習室を借りていた彦田たちと合流した。
「ちょっと探してみたけど、どこをまとめたら良いかよく分からないな」
 松本が、沖縄の歴史を書いた本をめくりながらぼやく。
「それガチの歴史書なんじゃね」
 鳴澤が松本から本を取った。
「だって『沖縄の歴史』ってまんまタイトルに入ってるし」
「俺、ちょっと見てくるよ」
 彦田と松本が調べていた本をざっと見回した夏由が席を立った。
「じゃあ俺も」
 鳴澤も夏由の後に続いてグループ学習室を出る。夏由は、歴史コーナには向かわず、旅行ガイドが並ぶ本棚に向かった。
「行き先決めはレポートの目処が立ってからでいいだろ」
 鳴澤が夏由を促したが、夏由はここで良いと言って本を探し始める。
「ここの図書館は学校に近いから、修学旅行向けの本がまとまってるんだ。だから」
 指で本の背表紙を指しながら、夏由が棚を見ていく。何冊か引き抜いて中を確かめて、本を選んでいく。四冊ほど選ぶと、そのうちの一冊を鳴澤に渡した。薄めの冊子である。
「沖縄の音楽の本だって。沖縄音階って書いてある」
「へえ」
 鳴澤が最初の方のページを開き、小さく何かを口ずさんだ。夏由に肩をつつかれ、ハッと気がついて歌うのを止める。
「後で借りてく」
 本を抱えた夏由は、鳴澤と共にグループ学習室に戻った。
「お前、意外と本探しが上手いのな」
 鳴澤に褒められて、夏由ははにかんだ。照れ隠しに、さっそく本を開く。図解入りの歴史ガイドブックのような本である。
「琉球についてなら、尚氏の三山統一から琉球処分までをざっとまとめれば良いと思うけど」
「なんだ、下調べでもした」
 彦田の言葉に、夏由は顔を上げた。
「え、三山統一と琉球処分は普通に教科書に載ってるでしょ」
 その間のことは書いてないと思うけどと首を捻る。
「載ってたっけ」
「どうだっけ。ちょっと見てみる」
 彦田と松本が顔を見合わせる。松本は世界史の教科書を取り出した。
「えっと、どの辺りだろ」
「あ、違う。日本史のほう」
「今日は日本史無かったな」
 鳴澤が、だから教科書が無いと言った。
「借りてくるよ」
 夏由が再び書架に向かうのを三人が見送る。
「やっぱりあいつ、歴史好きなんじゃ無いのか」
「日本史は成績いいもんな」
 彦田の問いに、鳴澤が答えた。


ひとしれずこそ

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