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夏休みが明けると、九月の最終週に行われる文化祭の準備で忙しくなる。
夏由たちのクラスの出し物は縁日だ。百円ショップで売っている玩具の銃を使った射的、ペットボトルなどの廃材を再利用した輪投げにボーリング、ビニールプールを使ったヨーヨー釣りに駄菓子コーナーを用意する。
大型スーパーのアピタスに向かう道すがら、夏由は悠翔に話しかけるきっかけを探していた。午前中に降り出した雨は、放課後には上がったが、まだ厚い雲がかかっている。前を歩く悠翔の、ワイシャツが汗で濡れているのを、夏由は見つめていた。
夏由が買い出し係になったのは、役割分担の話し合いで何も発言しなかったためである。部活もしておらず暇そうだからと提案され、夏由は断らなかった。一人では大変だと言うことで、悠翔が同行を申し出た。
始業式の日、悠翔は夏由に挨拶をしなかった。夏由も視線を向けようともしない悠翔の態度に気後れし、声をかけそびれてしまった。
それから一週間。夏由は悠翔と、まともに言葉を交わしていなかった。それどころか他の友人達もどことなくよそよそしい。
何か思い当たることがある訳でもなく、夏由は困惑していた。
「あ、最初に百均見ちゃった方がいいかな」
信号待ちで隣に並び、夏由はようやく悠翔に話しかけることが出来た。
「そうだな。画用紙とか糊なんかは文具コーナーでもいいけど、一緒に買っちゃえば楽だよな」
何の
「最低限、銃とヨーヨーでしょ。あとは看板と飾りに使えそうな何か」
いくつか案は出たものの、何を買うのかは夏由のセンスに任されていた。大きなものを作る段ボールは、来週以降分担して集めることになっている。
「俺、センスなんて自信ないよ」
信号が青に変わり、悠翔はさっさと歩き出した。夏由はその斜め後ろを歩く。
「でもみんなはお前に任せるってさ」
「梅田さんに任せた方が良かったんじゃないかな」
夏由はデザイナー志望の女子の名を上げた。
「だったら、話し合いの時に提案すれば良かっただろ。お前さあ、話し合いでは文化祭には興味ありませんって顔してダンマリで、後からグチグチ言うのは卑怯だよ」
悠翔が振り返らないまま言った。
「時城は、オープンキャンパスの宿題、どうした」
唐突な話題の変化に夏由は戸惑った。
「あ、兄さ……叔父に大学のこと聞いて、資料貰って書いたけど。オープンキャンパスは行かなかった」
夏由の答えに、悠翔はため息をついた。
「まあ俺が聞いた範囲だと半分くらいはオープンキャンパスには行ってないみたいだけどさ。お前、その兄さんだかオジさんだかが行ってる
「違うけど、そもそもまだどこの大学に入れるかなんて分からないし」
悠翔は鼻を鳴らしただけで、返事をしなかった。
夏由はただ悠翔が口を開くのを待っていた。大きな交差点を渡らずに左に曲がると、すぐアピタスの入り口が見える。
「お前のそういうところがムカつくんだよ」
悠翔のきつい言葉に、夏由はすうっと血の気が引いたように思った。
「多分、あの宿題の意味が分かってないのはお前だけだよ。オープンキャンパスに行かなかったヤツだって、お前みたいに適当にはやってないぜ」
「宿題の意味」
悠翔が先に店内に入る。賑やかな音楽が聞こえる。
「いいよ。お前はそうやって与えられるまで待ってるのがお似合いだよ」
目的の百円ショップは三階にある。
「俺はただの荷物持ちだからな」
助言はしないという意思を示すためか、悠翔は夏由を先にエスカレーターに乗せた。
夏由はワイシャツの胸ポケットに入れたメモ帳を取り出す。各クラスに認められる予算のうち、三千円を夏由は預かっている。