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ドアが開く気配とともに、
御堂は、親族が経営する会社の従業員ということになっているが、出社はしていない。この家から出ることはほとんどなかった。
みどうはベッドに、ドアに背中を向けて寝たまま、身じろぎ一つしなかった。
独特の匂いが動いて、
小花衣は、何をするときも余計な音は立てない。それが御堂には好ましかった。小花衣がベッドの、御堂の腰のあたりに座る。
「煙草、変えたの」
御堂はようやく小花衣の方を向いた。小花衣は上半身をひねって、御堂を見下ろした。五十路の手前という年齢にしては若々しい肌をしているが、身にまとう雰囲気はその筋の人間らしい重みがあった。いつも仕立てのよいスーツを身にまとっている。カジュアルな服装を好む御堂とは違っていた。
「服の匂いが違うから」
煙草詳しくない御堂にはどの銘柄か分からないが、缶入りの煙草を吸うときの小花衣の表情が御堂は気に入っている。遠くを見るような、何も見ていないような目。わずかに開いた唇。煙が口からあまり出ない吸い方を、御堂は他に見たことがなかった。
「付き合いで一本だけ」
鼻がいいんだなと、小花衣が小さく笑った。それから立ち上がって、小花衣は机の引き出しから青い缶を取り出した。椅子に深く座る。煙草を一本取りだし咥え、オイルライターで火をつけた。
御堂はベッドから出て、小花衣の前に膝をついた。まだ二十代の伸びやかな肢体を、小花衣の腿に預ける。
「一口ちょうだい」
小花衣が缶を差しだそうとするのを、御堂は制した。
「一口」
小花衣のスーツの前に頃をつかんで引っ張る。小花衣は烟を口に含むと少しかがんで、仕方なさそうに御堂と唇を合わせた。御堂は口移しで烟を味わった。