ひとしれずこそ2章

15 祭りの後

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 一日中、雨が降ったりやんだりしていた文化祭二日目も、無事に終わった。
 教室の片付けと閉会式の後、体育館では夕方まで、後夜祭が行われる。放課後で自由参加と言うこともあり、参加する生徒はそれほど多くはない。
 捻挫をしており、床に座ったりフォークダンスをしたりする事が辛い夏由も、閉会式が終わるとすぐに体育館を抜け出した。
「そうだ、打ち上げしようぜ」
 教室に戻る途中、階段で夏由に肩を貸していた彦田が言った。
「おう。飯? カラオケ?」
 鳴澤が乗り気で返事をする。会談が終わり廊下に出たので、夏由は彦田の肩から腕を外した。
「どっちでも良いけど、学校の近くはすぐ埋まっちゃうんじゃないかな」
「そうだよなぁ。どっか良いところ無いかな」
 夏由の言葉に、彦田が唸る。
「俺んの近くでよければ、ファミレスもカラオケもあるけど」
 夏由の家の最寄り駅は、学校の最寄り駅の隣だ。学校からは自転車でも二十分ほどで移動できる。
「日曜だし、混んでるかも知れないけど。――通りぞいの――」
 夏由がスーパーの名前を挙げた。同じ敷地内に、カラオケ店などが入ったアミューズメント施設と飲食店がいくつか入った建物が建っている。
「ああ、分かる。じゃあそこで良いんじゃないか」
「俺、岡田にメールしとく。姫先輩には、どうする」
「多分、茶道部の方の打ち上げに出ると思う。三年だし、最後だから」
 彦田が答えると、鳴澤が頷いた。
「分かった。って、お前は、良いのか、部活の方は」
「良いんだよ。女子の食事に混ざる方が怖い」
 茶道部の男子部員は二人だけである。もう一人も、茶道部の打ち上げには参加しないつもりらしい。
 教室に戻ると、鳴澤は悠翔にメールを送った。

 教室でのホームルームが終わると、閉会式をサボった悠翔は、体育館裏に来ていた。毎年この時間、ひと組は来ると噂されている場所である。
「ここで会うのは一年ぶりね」
 郁恵の声に、悠翔が振り返る。
「そうだね。去年呼び出したのは俺からだったけど」
 バンドの演奏前、悠翔は郁恵から、ここへ来るように耳打ちされていた。
「一年か。よく持った方かしら」
 郁恵の言葉に、悠翔は返事をしなかった。
「私、これからは受験に集中したいの。バイトも、今月いっぱいでお終いにするし」
「受験するの、看護系の学部だっけ。姫ちゃんのナース姿、似合いそうだしね」
「その呼び方、もうやめて。それに、そんなコスプレ目的で看護職に就くっていう発想も」
「ごめん」
 さすがに茶化してはいけない場面だったと、悠翔は反省した。
「それに、岡田くん、私のこと全然見てくれない。私がどんな映画が好きかとか、どんな音楽を聴くとか、全然知らないでしょう」
「恋愛ものとか、見てそうなイメージだけど」
「そうやってイメージばっかり。私がハリウッドのアクションものを見たり、インディーズのライブを見に行ったり、パンク系のバンドが好きだったりするのが好きなのも知らなかったでしょう」
 郁恵は、淡々と話す。悠翔は俯いて、小声で反論した。
「ごめん。でもだって、そういう事、全然話してくれなかったし」
「初めの頃はちゃんと話そうとしたけど、あんまり聞いてくれなかったから」
「それも、ごめん」
「だからね」
 悠翔は顔を上げた。ちゃんと目を見て話を聞かなければ駄目だと、今更思う。
「分かれよう」
「……分かった」
 もう、話し合いも仲直りも期待できないことが、悠翔にも理解できた。
 悠翔は頷くしかなかった。
「……ちゃんと話してくれてありがとう。先に行くね」
 郁恵に、悠翔は背を向けた。
 小止みだった雨が、また降り出してきた。

ひとしれずこそ

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