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いよいよ修学旅行のメインイベントである班行動になった。夏由は悠翔、鳴澤とタクシーに乗り込む。もう一台のタクシーに乗った女子三人も同じ班だ。
沖縄本島を大きく移動する班もあるが、夏由たちは那覇からあまり離れずに行動する予定だ。まずはチェックポイントにもなっている首里城に向かう。
「昨日の風呂の帰りに、二組の鈴木さん見かけたけど」
悠翔の言葉に夏由はドキっとした。
「売店の方に行ったみたいだったけど、会わなかったか」
「俺たちが風呂から帰ってきたとき、時城、買い物に行ってただろ。帰りがちょっと遅かったからもしかしてって話してて」
鳴澤が続けた。タクシーの後部座席で、少しニヤニヤしている二人に挟まれ、夏由に逃げ場はない。
「会ったよ。ちょっと話したいって言われた」
「やっぱりな。で、どうだった」
悠翔の口調に夏由は嫌な気持ちになった。
「やっぱりって、何か知ってたの」
「悪い、桧山さんたちにちょっと相談されて」
「何を」
夏由の口調がとげとげしくなる。
「鈴木さんが時城と二人で話すチャンスを作れないかって」
答えたのは鳴澤だ。
「それで、昨日の花札でちょっと仕込んだ。彦田と松本は知らないから責めないでやってくれ」
「ほら、お前って全然恋愛の話とか乗ってこないし。文化祭の時も鈴木さんとは感じが悪くなさそうだったから」
悠翔が付け足す。
「それに女の子が勇気だそうとしてたし、応援してやろうって岡田と話して、な」
「俺、別に鈴木さんにそういう気持ちはないから、断ったよ」
タクシーが首里城に着いて、話はそこまでになった。
首里城の見学を一通り済ませ教員の確認を受けると、六人は周辺の観光地をいくつか回った。男子三人の異様な雰囲気に、女子も黙りがちになっている。
「ここ、俺が事前学習で調べた店」
飲食店の前にタクシーが着くと、悠翔が無理にはしゃいだ声を出した。中に入ると、昼食時とあって混み合っている。五分以上待って席の案内されると、悠翔がさっとソーキソバを六人分頼んだ。予定通りだからか、気まずい雰囲気に呑まれてか、誰からも異論は出なかった。
「ガイドブックに載ってるだけあって美味しいね」
木村
「そうだね。お肉も柔らかいし」
杉山
午後はテーマパークで遊ぶ予定だ。
まずは鍾乳洞を見学する。初日のガマとは違い大自然を体験でき、午前中の雰囲気の悪さが緩和された。女子三人は明らかにほっとした表情になる。
琉球王国時代の町並みを再現したエリアでは、着付け体験を行った。
「これすっごくカラフルで可愛いね」
木村が楽しそうに言った。
「
木本が褒める。杉山も着せて貰った衣装の袖を広げてご満悦だ。
「鳴澤くんたちも一緒に写真撮ろうよ」
伝統衣装が恥ずかしく、隅の方で固まっていた三人に明里が声をかけた。夏由たちも仕方なく横に並んだ。スタッフが三人の携帯電話でテンポよく写真を撮っていく。
「時城もカメラ出せよ」
「じゃあ、一枚お願いします」
悠翔に促されて、デジタルカメラを預ける。この修学旅行で始めて自分のカメラに写ることになった。
その後は琉球王国エリアの散策に移る。一度写真を撮られたせいか、夏由は恥ずかしさも気にならなくなり、古い時代の町並みを楽しんだ。悠翔も鳴澤も同様らしい。あちこちに携帯電話のカメラを向ける女子たちに混ざって、二人も写真を撮っている。せっかくだからと夏由も建物の写真を撮った。
「そろそろ次行かないと」
春美が腕時計を見て言う。
「あ、もうこんな時間だね」
悠翔が応じて、一同は着付けの会場に戻った。