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肇がレポートを書き上げ、テーブルを片付け始めたのを機に、夏由はカボチャの煮物を皿によそった。炊飯器に残っているご飯では二人分には足りないので、冷凍のご飯を電子レンジにかける。きゅうりの漬物とインスタントの味噌汁をつければ、男子学生二人の食卓もさまになった。
食後の洗い物を済ませた夏由は、シンク下に鍋をしまおうと扉を開けた。
「あ」
思いがけず勢いがついて開いた扉から、引っかけられていたタオル掛けが落ちる。
「ドジ」
並んで米を研いでいた肇が軽い口調で言う。いちいち指摘されて夏由はムッとしたが、黙ってタオル掛けを拾ってかけ直した。
「ああ、そうか。これでいいんだ」
「何だよ、今更そんなもんのかけ方にでも気がついたのか」
「違うよ。屋台の屋根も、こうやって窓枠に引っかければ良いんだって思っただけ」
「ああ、さっき言ってた文化祭の飾り付けか」
怪我の功名だなと肇が言うが、夏由の耳には入っていなかった。
週明け、夏由は教室に入るなり悠翔に声をかけた。
「アレのやり方、思いついたんだけど」
夏由が説明する方法に、悠翔はしばらく考えて頷いた。
「ああ、それならいけそうじゃないか。須藤、梅田、ちょっと良いか」
悠翔が声をかけると、女子二人がすぐにやってくる。
「岡田、もう一回説明してみろよ」
「あ、うん。俺が思いついた屋台の屋根の作り方だけど、Fの字の形に組んだ角材を二つ作ってドアの上の小窓に引っかけたらどうかなと思って」
「Fの、横棒で窓枠を挟む感じかな」
須藤が確かめるように言う。
「そう。それで、長い方の端をもう一本の棒で繋いで」
「うん、良いと思う」
梅田も賛成する。
「じゃあ、私、鈴木さん達にも聞いてみる。オッケーだったら早速今日、材料買いに行かない」
話しがまとまる。夏由は一仕事終えた気分で息をついた。
夏由の案で作業を進めることになった。放課後、今日は都合が悪いという悠翔を除くメンバーで買い出しに出かける。昼休み中に設置場所のサイズを測っておいたメモは、夏由が持っている。
高校から一番近いホームセンターは、夏由の家の近所にあるチェーン店だ。女子五人を連れて地元を歩くのは気恥ずかしい。せめて鳴澤か彦田に声をかければ良かったと思ったが、後の祭りだ。
「材木、ああ、あったよ。向こうだって」
桧山が案内図を見てから、店の奥を指さす。鈴木が頷いて歩いて行くのを、桧山が追いかける。
「布地は、なさそうかな」
「手芸店で良くない。それか百均か」
須藤の言葉に遠坂が答えると、二人も材木コーナーへ向かう。
「時城くん、行くよ」
梅田に促され、夏由も女子達に続いた。
「あんまり太いやつだと重さで落ちちゃうかな」
先について角材を選んでいた鈴木が、夏由を振り返った。
「廊下側にはあんまり長く出さないから大丈夫だと思うけど。心配なら引っかける方の角材を太めで重いのにして、廊下に出す方は細めにしたら良いと思うけど」
「ああ、なるほどね」
夏由の提案に従い、鈴木と須藤が中心となって角材を選んでゆく。Fの短い棒は、長い棒を挟むように二本ずつ付けて補強することにした。
予備も含めて購入した角材は、夏由が預かり、明日学校へ持って行くことになっている。
「かさばるのにごめんね。ウチのクラスの分もあるのに」
鈴木が謝ると、夏由は軽く首を振った。
「大丈夫だよ」
「オトコマエじゃん」
遠坂に冷やかされ、夏由は少し赤くなった。