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日本史の教科書を借りて戻ってきた夏由は、琉球王国に関する記述を鳴澤、彦田、松本に見せた。尚氏による統一も琉球処分も、一、二行書かれているだけである。
「良くこんなの覚えてたな」
松本が感心して言う。
「琉球処分はまだ習って無くね」
「それはたまたま知ってたから」
鳴澤の疑問に夏由が答える。松本はしまいそびれた世界史の教科書の索引を見て、こちらにも琉球の記述があることを三人に告げた。
「こっちの方が少ないな」
「一応世界史でも習ってたか」
好きな科目のひとつが世界史である鳴澤が、覚えていなかった事を大げさに悔しがって見せた。
「じゃあ、時城の言うとおり三山の統一から琉球処分まででいいって事でいい」
一通りのお喋りが終わったところで、松本が話を戻した。
「異議なし」
彦田が顔の高さに手を上げて返事をする。
「同じく」
鳴澤もそれに倣うと、ようやく本を調べ始めた。
夏由の活躍もあり、何日もかかると思われたまとめ作業は、それから三日後には全て終わった。クラスでの発表用の資料は松本が中心となってパソコンで製作し、提出用のレポートは指定のプリントにそれぞれが手書きした。夏由は、自分の考えを書く欄を埋めるのに苦労はしたが、レポートを書く事に対しては楽しみも感じていた。
「行き先も決めないとだよな」
昼食用の菓子パンを食べながら悠翔が言った。修学旅行の班行動は、夏由、悠翔、鳴澤に、女子を三人加えた六人で行う。来週の
「それで、俺、行きたい店があるんだけど」
悠翔が旅行ガイドを開いて見せた。悠翔たちのグループは、沖縄の料理がレポートのテーマであった。
「ここのソーキ蕎麦、評判良いらしいんだ」
「そういうところよりも、まずは観光する場所を決めなきゃ」
言いながら、夏由もガイドを覗き込む。
「ここなら首里城にも近いんだ」
「ああ。首里城は全員行かなきゃいけないんだし、寄れるだろ」
「俺も見せて」
鳴澤が、四時間目の授業をサボって買ってきたコンビニのおでんを食べながら手を伸ばした。