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ファミリーレストランで食事をしながら、悠翔はちらちらとウエイトレスの少女を気にしている。
夏由は注文したピザを半分食べただけで持てあましてしまい、オレンジジュースばかりをすすっている。
「いいよな岡田は。美人のカノジョがいて」
鳴澤が大してうらやましくもなさそうに言う。
「なあ、時城」
「そうだね」
全然美人じゃないじゃん、と内心呟きつつ夏由が返事をする。
「でも最近冷たいんだよ。急にバイト始めるしさ」
受験を控え、アルバイトを辞めたり減らしたりするな普通だけど、と悠翔は不満を漏らした。
「大学って金かかんじゃん」
鳴澤がドライに言う。
「姫ちゃんも学費の足しにって言ってるけどさあ」
「姫? そんな呼び方して、相当だな」
「え、ああ、違うって。郁恵先輩のあだ名」
学校では下ろしたままにしている長いストレートヘアと、純和風の顔立ちから、所属する茶道部では姫という愛称で呼ばれているという。
「看護学部目指してるから、結構かかるらしくて」
「……あのさ、岡田」
眉根を寄せる悠翔に、夏由は訊ねた。
「急に予備校に行きだしたのって、彼女が原因だったりする」
「ん、まあ、そうだな。まさか同じ学部は無理だけど、看護系以外の学部もあるし」
「頑張って」
「時城はどうするんだ。お前だって他人事じゃないだろう」
悠翔の問いかけに、夏由は何も答えられなかった。
花火大会の日は、平日だというのに午後三時には最寄り駅から会場となる河川敷までの大通りは人で一杯になっていた。四人は二時に駅で待ち合わせをし、夏由の家で涼んでから出かける予定だ。
「久しぶり」
早めに駅について待っていた夏由に、最初に声をかけてきたのは彦田だった。紺に白い縞の入った浴衣に、藍色の帯を締めている。茶道部にたった二人の男子部員で、「旦那」の愛称で呼ばれる彦田は、平均より低めの身長で少し太めの体型に、アーモンド型のくりっとした目が愛嬌がある。
「時城は浴衣着ないの」
「これから着るよ。家がこっちだから」
「よ」
続いて改札から出てきたのは鳴澤だった。薄いグレーに濃いグレーで縞の入った甚平をラフに着ている。足元はビニールの雪駄だ。180センチに近い身長でひょろっとして見えるが、腕は逞しい。
「彦田の帯変わってるな」
「ああ、これか。面白いだろ」
鳴澤が指摘した彦田の帯は、前から見ると芯の入った角帯だが、結び目の部分から先は兵児帯のように柔らかくなっている。蝶結びの輪が片側にしか出来ない結び方をしている。
「俺帯の結び方がよくわからなくて。そういうのなら簡単そうでいいね」
夏由がいうと、彦田がにっと笑った。
「ああ、簡単だぜ。でも普通のスーパーなんかじゃ、まあ無いな。これもばーちゃんから貰ったし」
彦田の祖母は呉服店を営んでいる。履いている雪駄もきちんとしたもののようだ。
「お待たせ」
それからすぐに悠翔も到着した。生成りにグレーの縞が入った浴衣に、白い腰紐だけの姿だ。黒いサンダル履きで、紺の帯は丸めて手に持っている。乱れた裾から覗く白い臑から、夏由は視線をそらせた。
「満員電車でほどけちゃって。説明書がないと結べないし」
「貸してみな」
彦田が悠翔から帯を受け取る。端の方を二つ折りにすると、手早く悠翔に巻き付けた。貝の口に結ぶ。
「あとでちゃんと着付けてやるよ」
「俺のもあとでお願い」
夏由がいうと、彦田は任せろと頷いた。