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相変わらず暑い日が続いている。
昨夜はなかなか寝付けなかった
「よ」
シティサイクルのハンドルから片手を離し、悠翔が挨拶をした。
「おはよ」
夏由がそれに返す。凍らせておいたスポーツドリンクを、ナップザックから取り出して一口飲んだ。
「鳴澤も来るって」
「分かった。アピタスに行く前にATM寄りたいんだけど」
夏由は、買い物をする予定である大型スーパーの近くに、郵便局のATMが無いか悠翔に訊ねた。
「アピタスの中にあったと思うけど」
「じゃあちょっと寄らせて」
「了解」
そう言って、悠翔は腕時計に目をやった。つられて夏由も時間を確認する。待ち合わせの時間からは五分過ぎている。
「お待たせ」
鳴澤が錆の浮いたマチャリにまたがって、少し遠くから声をかけてきた。普段はバイクに乗るが、今日は二人にあわせて自転車だ。無精ひげが生え、高校生にしてくたびれたおっさん化している。
「行こうぜ」
悠翔が自転車のハンドルを握り直す。夏由は車道に出て先に走り始めた。
アピタスまでは、自転車で10分もかからない。だが、それだけの時間にも汗はダラダラと流れた。
地下駐輪場から店内に上がり、三人はほっと息をついた。
ATMコーナーはすぐに見つかり、夏由は浴衣の代金を引き出した。バイト代が入っているはずだという鳴澤も、用事を済まる。
「買い物の前にマック寄ろう」
「おう」
悠翔の提案に、鳴澤が頷く。夏由は案の定、軽いめまいを感じていた。
塩のきいたポテトと、コーラで人心地ついた三人は、衣料品売り場に向かった。
特設コーナーの、赤や黄色、水色の色鮮やかな浴衣が目につく。
「やっぱり女子の浴衣はいろいろあるな」
悠翔が華やかな柄の浴衣に視線をやりながら言った。
「そういうのが好みなんだ」
鳴澤が悠翔をからかった。自分はピンクの甚平を摘まんでいる。
「時城はどれがいい」
悠翔が矛先を夏由に向けた。夏由は紺の、大人びた浴衣を示した。
「こういうのも格好良いよね」
「へえ、時城は年上好きなの」
悠翔の言葉に、夏由はとっさに返事が出来なかった。
「それより、メンズはあっちだね」
通路を挟んだコーナーに向かい、夏由はさっさと歩き始めた。
「俺これにしよう」
鳴澤が、男性浴衣のコーナーに着くなり甚平を手にした。薄いグレーの地に、濃いグレーで縞が入っている。
「サイズだけ見てくるわ」
一人で試着室に入っていく。残された夏由と悠翔は、自分に似合うものを選びかねて、ハンガーに掛かった浴衣をなんとなく眺めていた。
「お前これ似合いそうじゃん」
悠翔が紺の浴衣を夏由の胸に当てた。Tシャツ越しに熱い悠翔の指を感じ、夏由は顔が火照るのを感じた。
「じゃなかったらこっち」
今度はくすんだ薄緑色の浴衣を掲げる。
「こっちの方が好きかな」
「じゃあ決まり」
ニッと笑う悠翔に押され、夏由は薄緑の浴衣を受け取った。それから、目についた生成りの浴衣を取る。
「岡田は、これかな」