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素麺を食べ終わると、夏由は再び横になった。大学生の肇は、週明けに提出しなければならないレポートを書いている。
「また小母さんと喧嘩でもしたのか」
パソコンに向かうとき、肇は眼鏡を掛ける。自然に左右に分けた頬にかかる前髪の向こうに、野暮ったい黒いフレームが透けている。Tシャツの鉄紺色は褪せ、白く塩が浮いていた。
「違う」
「じゃあ何で家出なんかしたんだ」
夏由は、半袖のワイシャツから延びる細い左腕を、閉じた瞼の上に乗せた。
「家にいたくなかったから」
「その理由を聞いてるんだよ」
「別に良いだろ」
「夏由」
肇の声が怒気をはらむ。
「拗ねてるだけなら家に帰れよ」
「……会いたくない奴がいるんだよ。
「女」
「……男」
夏由はごろりと寝返りを打った。肇に背を向ける。肇は黙って先を促した。
「限界なんだよ。次に顔を合わせたらみっともないことになる」
膝を胸に引き寄せる。
「気持ちが悪いんだ。腹の底がぐるぐるする」
「……重症だな」
上になった左腕で膝を抱き、右手は下腹をさする。
ちゃぶ台に置かれたノートパソコンが閉じられる音がした。
「こっち向けよ」
肇が強引に夏由を仰向かせた。
去年、夏由に
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