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甥からメールが届いたはいいが、一向に本人はやってこない。駅からアパートまでは十分もあれば歩ける距離で、迷うほどの道筋ではない。
携帯電話に掛けても出ず、心配になった肇は、夏由を探すために部屋を出た。
夏由は、アパートのすぐ近くの路地でうずくまっていた。幸い、少しぼんやりしているが意識はあり、受け答えも出来ている。部屋に連れて帰り涼ませれば大丈夫だろうと、腕を引いて立たせると、肩をかして歩かせた。
「これ当てとけ」
肇が冷凍庫から、カチカチに固まった氷枕を出して渡してやると、ちゃぶ台の脇で横になっていた夏由は頭の下に敷いた。スポーツドリンクを一本飲み干して、すでに回復しつつある様子だ。
肇はほっと一息ついて、自分用に麦茶をコップに注いだ。ガラスのボトルは重くて使い勝手が悪い。それでもわざわざ薬缶で煮出すのは、ペットボトルで買うよりも軽く、安上がりだからだ。
「昼飯は」
「……食べてない」
肇の問いかけに、夏由はばつが悪そうに答えた。麦茶を飲み干し、コップを流し台に伏せる。
「飯も食わないでこの暑いのにフラフラ歩いてるから倒れるんだな。せめて水分くらい取ってたんだろうな」
「学校に着いたときに。後は、電車に乗る前にアイスキャンディーを食べた。……半分だけ」
「それで足りるわけないだろう」
肇は台所の棚の中を探して、素麺を見つけだした。
「すぐ食えるもんだとこれぐらいしかないけど」
「食欲がないんだ」
「だめだ。少しは食べろ。食わないんだったら小母さんに電話して迎えに来て貰うぞ」
肇はハーフパンツのポケットに入れたままだった携帯電話を取り出す。
「それは、厭だ。泊めてよ」
「だったらちゃんと食えよ。食うなら泊めてやる」
夏由がうなづく前に、肇は焜炉に出したままだった鍋に水を張り始めた。