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正午を少し過ぎた時間の地下鉄は空いていて、それでも座席は八割がた埋まっていた。
夏由は、溶けたアイスキャンディーでべたつく手で定期入れを触ってしまったことを後悔しながら、ドアの前にある座席脇の部分に寄りかかった。炎天下で汗をかいたままの体に、冷房が少し寒く感じる。
昼食を食べ損ねたと、夏由はぼんやり考えた。終業式の後、悠翔とハンバーガーでも食べながら夏休みの計画を立てようとしていた。だが目的のファーストフード店は、同じ考えの生徒で混雑して行いた。コンビニでアイスでも買って、少し店が空くのを待とうと言い出したのは悠翔だった。
そして、結局ファーストフード店には戻らないまま、夏由は立ち去ってしまった。ぶり返してきた気持ちの悪さに、夏由は下腹を押さえる。
地下鉄が徐々に速度を落とし始めた。学校から一駅で自宅の最寄り駅に到着する。炭酸の気が抜けるような音がして、反対側のドアが開いた。
降りる気になれず、夏由はずるずると床に座り込んだ。高校生のこのようなだらしなさに、乗客はすっかり慣れている。眉を顰めるものはあっても、注意するものはおらず、まして傍若無人と決めつけている若者の体調を気に掛けるものなど、誰もいなかった。
再び走り始める地下鉄は、川を渡るために地上へ出た。
橋を二つ越えると千葉県に入る。せっかくだから叔父を訪ねてみようと、有名なテーマパークに近い駅で夏由は地下鉄を降りた。歩きながらメールを打つ。
改札の外は、容赦なく照りつける太陽と、アスファルトの照り返しでまぶしい。
夏由の叔父は、北口を出て十分ほどのアパートに住んでいる。叔父とは言っても祖父の再婚相手の連れ子で、夏由とは五つしか年が違わない。一浪一留し、現在は大学二年生だ。
炎天下を歩くうちに、夏由は目眩を感じ始めた。遠近感がなくなり、やがて景色が白くぼやける。
やはり蝉の声が煩い。