ひとしれずこそ

夏休みの始まり

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 蝉が鳴いていたのを覚えている。
 俺たちは、コンビニの前のガードレールに座っていた。
 ソーダ味のアイスキャンディーが溶けて、手がべたべたになっていたことも、日差しを浴びた首筋がヒリヒリしていたことも、覚えている。

 悠翔がアイスキャンディーを食べ終わって、未練がましくスティックを前歯で噛んだまま、ケータイをいじっていた。

 俺は、背中を丸めてアイスキャンディーをちびちび噛みながら、悠翔の横顔を盗みみた。そして、前から感じていた、腹の底がムズムズするような気持ちの悪さの理由に、もう気が付かない振りはできないことを知った。

 スティックの片側にへばりついていたアイスキャンディーが、ボタッと地面に落ちた。
 俺は行儀悪くスティックを地面に捨てて立ち上がった。
「悪い。帰る」
 悠翔が立ち上がって、ケータイをポケットにしまうのを待たずに、俺は歩き始めた。
「おい、待てよ」
 呼び止める声に、俺は答えなかった。

 爽やかさとはほど遠い、高校二年生の夏休みの始まりだった。

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