短編 上京 武彦は息子と、もう二年近く口をきいていない。今も隣でムスッとした表情をしているだろうと武彦は思った。 息子が絵描きになりたいと言い出したのは小学生の時だった。その時は子供の他愛の無い夢と思い応援した。美術系の高校へ進学したいと言われたとき... 2023.07.04 短編
短編 道しるべ 十数年振りに父の郷里へ来た。区画整理されすっかり新しくなた道路に□□は戸惑う。大まかな方角を頼りに車を走らせると、不意に古くからある通りに行き当たりほっとした。公民館の在処を示す案内板は朽ちかけている。 元の米屋の角を曲がって、豆腐屋の三... 2022.09.19 短編
短編 雨宿り 一日中薄曇りだが雨は降らない。 そう言った天気予報士の言葉を信じて、□□は傘は持たずに家を出た。 学生時代に好きだった小説が完結した記念に、挿絵の原画展が行われる。□□は渋谷にあるオフィスビル内のギャラリースペースまで、その原画展を見に... 2022.09.04 短編
短編 日常1 或る朝 目覚まし時計代わりのスマホのアラームが鳴った。薄目を開けて周囲を見る。代わり映えのしない光景。半ば開いたカーテンの外はまだ薄暗い。古い磨りガラスの窓のおかげで、街の風景はいつでも滲んで見える。 スマホがアラームを鳴らし続ける。停止ボタンを... 2021.03.06 短編