短編

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上京

武彦は息子と、もう二年近く口をきいていない。今も隣でムスッとした表情をしているだろうと武彦は思った。  息子が絵描きになりたいと言い出したのは小学生の時だった。その時は子供の他愛の無い夢と思い応援した。美術系の高校へ進学したいと言われたとき...
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道しるべ

十数年振りに父の郷里へ来た。区画整理されすっかり新しくなた道路に□□は戸惑う。大まかな方角を頼りに車を走らせると、不意に古くからある通りに行き当たりほっとした。公民館の在処を示す案内板は朽ちかけている。  元の米屋の角を曲がって、豆腐屋の三...
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雨宿り

一日中薄曇りだが雨は降らない。  そう言った天気予報士の言葉を信じて、□□は傘は持たずに家を出た。  学生時代に好きだった小説が完結した記念に、挿絵の原画展が行われる。□□は渋谷にあるオフィスビル内のギャラリースペースまで、その原画展を見に...
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日常1 或る朝

目覚まし時計代わりのスマホのアラームが鳴った。薄目を開けて周囲を見る。代わり映えのしない光景。半ば開いたカーテンの外はまだ薄暗い。古い磨りガラスの窓のおかげで、街の風景はいつでも滲んで見える。  スマホがアラームを鳴らし続ける。停止ボタンを...