短編

上京

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 武彦は息子と、もう二年近く口をきいていない。今も隣でムスッとした表情をしているだろうと武彦は思った。
 息子が絵描きになりたいと言い出したのは小学生の時だった。その時は子供の他愛の無い夢と思い応援した。美術系の高校へ進学したいと言われたときには、現実を見ろと叱りつけた。専門の予備校へ行きたいと告げてきた時に、「勝手にしろ」と返したのが最後の会話だったか。

 そして今、美大へ進学する息子を助手席に乗せて駅までの道を走っている。
 互いに無言の時間が続く。
「身体には気をつけろ」
 駅前で車を止め、武彦が言った。
「親父こそ」
 息子はそう答えて車を降りた。
 武彦は目の前が滲んで、しばらく車を動かせなかった。


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