彼女に文字が読めるワケ

それぞれのその後 「かえって大変な目に遭った気分だ」 　秋にあった裁きから季節を二つ越えて、春。一度、家族の元に帰ったセレネだが、近隣住民の腫れ物に触るような扱いに耐えかねて、神殿に避難してきている。 「なんたって神の使いだもんな」 「それ...

１：陰で動くもの 　 「異世界転生、って言ったら信じるか？　別の世界で死んで、この世界で生まれ変わったと言ったら」 　セレネの言葉に、タラッタは何の反応も返せなかった。 「俺がいたのは、神様のいる世界じゃない。魔物の世界でもない。ここではな...

１：神殿 　タラッタは、護衛として付いてきた中隊の兵士達と別れて神殿の門をくぐった。正面に人々が祈りに訪れる表の間、その左右に廊下で繋がって建つ二階建ての建物が見える。向かって右の建物が女性の、左の建物が男性の宿舎だという。表の間の入り口の...

1：水場を探せ 　それからさらに一年が経った秋、セレネは九歳になった。相変わらず雨の少ない日々が続き、今では井戸も枯れそうになっている。 　幼い子供を仕事につかせたと五大神がお怒りだ。いや、魔物憑きを城に上げているせいだ。魔物憑きそのものの...

1：見習い兵士 　見習い兵士のタラッタは、所在無げに保管庫の前に立っていた。扉を背にして番をすることが昼前の仕事だ。だが十歳になったばかりの子供に鐘二つ分の時間は長い。すでに緊張感は無くなっていた。 　タラッタは退屈そうにあくびをかみ殺す。...

月夜の祈り 　知之神は闇之神の眷属とされる。そのため夜に祈りを捧げるのがよい。仕事で街を出た帰り道、人目を忍んで街外れの神殿に行くには好都合だ。 　月に照らされて、兵士らしく革の胸当てをつけた男が神殿の門をくぐった。小麦や木の実が入った籠を...