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忘れられなくなる

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 高校卒業から十年。
 クラス会の案内状を受け取ったとおるだが、参加するのは少し気が重かった。
 気がかりは、高校三年生の時のクラスメイト、尭雄たかおの事だった。

 尭雄が暁に気がある、ということは、本人は口にしなかったし、クラスの話題になることもなかったが、クラスメイトのほとんどが知っていることだった。
 暁が自覚している恋愛対象は異性である。それを気にしてのことか、それとも別の理由があったのかは分からないが、暁が尭雄から何かを求められたこともない。ただ何もかもが曖昧なまま友人未満の付き合いは続き、卒業後は一度だけ賀状をやりとりしたほかは、連絡もないままだった。

 都内のレストランを貸し切ってのクラス会には、卒業写真より十年分の歳月を重ねた顔が集まった。未だに十代でも通用しそうな人も、四十代に見えてしまう人も、平等に重ねている。それを暁は面白く眺めた。
「尭雄も呼びたかったな」
 幹事の漏らした声に、座が静まった。
「まあ、あいつのことは」
 視線をかわし合う男性陣に、「そういえば来てないね」と疑問を口にする女性陣。
「何かあったのか」
 暁は誰にともなく尋ねた。
「そっか。お前には連絡しなかったって言ってたっけ。尭雄は、死んだよ」
「え、いつ。どうして。事故か何かか」
「一昨年、一人暮らしをしていたアパートで。ちょっとした新聞記事にもなった」
「……知らなかった」
 暁は自分だけがのけ者にされていたショックに俯いた。
「本人の希望でな。暁、お前には知らせて欲しくなかったそうだ。お前が知らなければ、お前の心の中では生き続けられるからって、遺書にあったそうだ」
 元クラスメイトが幹事を睨む。幹事はスマンと小さく言った。
「そんなこと言われたら、忘れられなくなるじゃないか」
 それが望みだと、尭雄の声が聞こえた気がした。

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