ひとしれずこそ2章

3 提案

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 その週の木曜日のLHRロングホームルームは、文化祭の準備にあてられた。夏由がしどろもどろになりながら、他のクラスと教室の飾り付けを揃える提案があったことを伝える。
「2組の女子って調子こいてんじゃん」
「絶対うちらの意見聞かないよね。部活で一緒だけどわがままだし」
 一部の女子からは強い反対意見が出たが、男子は大方が乗り気な顔をしている。
「でも、二組と一緒にやったら目立ちそうじゃん」
「教室二つ分だし、廊下からでもわかりやすそう」
「別に合同企画にするんじゃなくて、飾りを統一するだけっしょ」
 特に意見のなさそうだった女子も、この言葉には納得するような声が上がった。
「合同じゃないのにお揃いにする必要ないじゃん。うちのクラスはうちのクラスでやればいいし。二組の案を押しつけられたらやだし」
 姉御肌の須藤がそれをバッサリと切り捨てるように言う。
「だったらこっちからも意見を出せばいいだけじゃん」
 好き勝手に喋るクラスメイトを、夏由は教室の前に立って見ているばかりだ。

 話し合いに入れない夏由は、助けを求めようと悠翔に視線を向けた。だが悠翔は、後ろを向いて鳴澤と何か喋っていて気がつかない。
「賛成の人、挙手」
 鳴澤が突然かけ声をかけると、男子のほとんどがすぐに手を上げた。数人の女子がそれに勇気を得たように続く。
「んじゃ反対の人」
 今度は彦田が言う。
「あ、賛成、何人だっけ」
 鳴澤が首をかしげて言った。
「数えるから反対の人そのままで……15、16、17と、18人」
 鳴澤が、今度はしっかり確認してから手を下ろさせた。
「じゃあ賛成は、22人か」
 彦田がクラスの人数の40人から引いて言うと、鳴澤が首を振った。
「俺と彦田と、時城も手ぇ上げてないから、引いて19人」
「微妙だな」
 彦田が腕を組んで唸った。
「俺は正直どっちでもいいけど、反対ってほどじゃない」
 鳴澤が言う。
「俺も。そうすると21人が賛成。でもまだ微妙か」
 彦田が賛成の人数を増やしたが、クラス全員が納得できるほどの差はついていない。
「まあ、まだ2組でも絶対賛成って決まった訳じゃないよね」
 梅田が彦田と鳴澤の会話に割って入った。
「じゃあさあ、とりあえずうちのクラスから提案するデザインを決めちゃわない。それを向こうが全く受け入れなかったらこの話はナシで自分たちでやる。どっちも納得できるデザインだったらそれに統一するって、どうかな」
 右手を顔の高さまで上げたまま、梅田が言うと、反対していた女子も少し考える表情になった。
「まあ、それなら。結局はデザインがよければいいんだし」
 須藤が梅田の案を受け入れるそぶりを見せると、女子から同意の声が上がる。
「じゃあ、デザインの話し合いに入っていいですか」
 ようやく夏由が司会らしく話を始めた。
 だが話し合いは、「ベースになる案が欲しい」という意見が出たきり進まなかった。

 その日の放課後、夏由、悠翔、須藤、梅田の四人は二組の代表と話し合いの場を持った。二組からは、買い物中に会った三人の女子が参加している。場所は学校の前にあるファストフード店だ。
「うちらのクラスは賛成だって」
 二組の遠坂が口を開いた。桧山と鈴木がポテトを摘まみながら頷いている。
「四組としては、案に納得できればって感じだった」
 須藤が、教室よりはややおとなしい口調で伝える。
「だよね。だから、うちらの案描いてきたんだけど」
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