ひとしれずこそ3章

6 三日目 2 班行動2

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 衣装を着たまま琉球王国エリアを散策した後は、伝統文化体験だ。鳴澤はガラス工房での体験が楽しみだったようで、嬉々として工房に入った。女子三人はポーチに紅型びんがたで染色をする体験に向かっている。
 職人が長い吹き竿の先にどろどろしたガラスを巻き取る。反対側から息を吹き込み膨らませた後、切り口と底を作る。竿から切り離したら切り口を広げて形を整えれば完成だ。
「ムズい」
 職人に補助してもらいながら体験した鳴澤が、戻ってくるなりそう言った。続けて体験した悠翔も渋い顔をしている。夏由は不安になりながら職人が用意したガラスを吹いた。
「もっと強く」
 言われて強く吹くと、形が歪になった。ガラスが冷め切らないうちに次々作業を指示され、訳が分からないうちに体験が終わった。作ったグラスは後日自宅に配送される。
 待ち合わせの時間までまだあったので、隣の革工房も覗いてみることにした。キーホルダーに刻印をする体験が出来そうだ。
「どうする」
 鳴澤がすでに元となるキーホルダーを選びながら聞いてくる。
「ああ、ついでだし」
「いいんじゃないかな」
 悠翔が同意し、夏由も頷いた。
 インストラクターに教わりながら、アルファベットのスタンプのような刻印棒を、練習用の革に当ててお尻をハンマーで叩く。
「おお、出来た」
 一文字出来るたびに鳴澤が声を上げる。悠翔も真剣な顔で作業をしている。夏由はぼんやりしていたら刻印棒を斜めに叩いてしまい、盛大に失敗した。
「ま、練習用でよかったじゃん」
 悠翔に慰められ、夏由は複雑な気分で本番用のキーホルダーを台に置いた。

 待ち合わせ場所に向かうが、女子はまだ来ていなかった。ベンチに座り一息つく。
「朝のことだけどさ。というか、昨日のことか」
 悠翔がぽつりと言った。
「何」
 蒸し返されたくなかった夏由は、少し不機嫌になって聞き返す。
「お前の気持ちも考えずに先走って悪かった」
「俺も、ちょっと舞い上がってた。すまん」
 悠翔が頭を下げると、鳴澤もそれに倣った。
「鈴木さんのことを思ってのことなんでしょ。だったらいいよ」
 謝られてなお怒るのは子どもっぽいと思ったが、やはり不機嫌さが口調に出てしまう。
「だからこの話は、もう」
 止めて欲しいと夏由が言いかけたとき、女子がやってきた。
「お待たせ」
「見て見て、お揃いの柄にしたの」
「色違いだよ」
 じゃーんと効果音がつきそうな勢いで、三人揃ってポーチを見せる。伝統の柄にハイビスカスをあわせたオリジナルのデザインらしい。
「可愛いの作ったじゃん」
 すかざす悠翔が褒める。三人は顔を合わせて楽しそうに笑った。夏由は中途半端な気分でそれを眺めていた。

 最後に蛇のショーを見てテーマパークを出た。
 ホテルに帰ると、さすがにみな疲れており、夕飯まではのんびり過ごすことになった。今日一日の出来事をそれぞれが披露する。
「ガンガーラの谷を見てきたけど、凄かった」
 松本が携帯電話に収めた写真を見せた。夏由たちも、当初は予定に入れていたのだが、時間がかかる場所を二つは入れられずに断念したのだ。
「俺たちはコスプレとかしたぜ」
 鳴澤に促されて、夏由はデジタルカメラを彦田たちに見せる。
「へえ、格好いいじゃん」
 呉服店の孫で、将来は店を継ぐつもりの彦田は、こういった伝統衣装にも興味が出てきたらしい。鳴澤が貰ったパンフレットをあげると喜んで読み始めた。
「あと、これも作ったんだ」
 悠翔がポケットからキーホルダーを取り出す。
「お揃いでな」
 鳴澤も彦田と松本に見せるが、夏由はポケットに入れたままだ。
「時城はやらなかったのか」
「作ったけど」
 全員に注目されて、渋々見せる。悠翔と鳴澤は多少の歪みも味のある仕上がりになっているが、夏由が刻印したキーホルダーは、打ち損じて文字がぶれたり大きくずれたりして、明らかな失敗作だ。
「ま、それはそれで思い出だろう」
 彦田に肩を叩かれ、夏由はかえってしょげてしまった。


ひとしれずこそ

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