御厨さんと藤堂くん

同棲編-01

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「風呂沸いてるっすよ」
 仕事から帰ってきた御厨に、藤堂は声をかけた。日頃から「体力は人並み以下」と公言している御厨だが、文具の卸売会社の倉庫で契約社員をしている。
 御厨が無言で風呂場に向かう。藤堂は夕飯の支度を再開した。煮物を温め直し、味噌汁を作っている間に御厨は風呂から上がるだろう。
 御厨からの返事がない時は、了解や肯定であることを、藤堂はこの何年かで学んでいた。

 疲れてはいるが、さっぱりとした顔で御厨が茶の間に現れた。ちょうど藤堂が夕飯を運び終えたところだ。
「いただきます」
 まだ髪が湿っているまま、御厨が手を合わせる。直接的ではないものの、御厨が感謝の気持ちを表現するようになった。それが藤堂にはたまらなく嬉しかった。
「いただきます」
 自分も同じように手を合わせて、藤堂は箸を取る。
「明日は休めるんすか」
 今は、文具業界では忙しい時期らしい。平日のみの勤務のはずが、土曜日の出勤を求められることが度々ある。
「ああ。やっと土日が連休になった」
 御厨によれば、夏の終わりから春先までは手帳祭だという。十月始まり、一月始まり、四月始まりと何度か手帳の出荷のピークがある。重くかさばる荷物が多くなりがちらしい。
「俺も明日、明後日は休みだし」
 藤堂の仕事は不規則だ。文系の研究書を多く出版している出版者に務めているが、執筆者の都合で予定が狂いがちである。
「今夜、どうです」
 御厨は黙ったまま煮物の中にある蓮根を摘まみ上げた。
 御厨の無言は、すなわち肯定であると、藤堂は知っている。

 御厨の気が変わらないうちにと急いで夕飯の片付けと入浴を済ませた藤堂は、御厨の部屋の前から声をかけた。
 元は御厨の祖父母が住んでいた家で、和風の造りである。御厨の部屋だけは畳を取り払って板の間に改装してある。そこへベッドや机を置いているのだが、襖と押し入れがそのまま残されているのが藤堂には可笑しかった。
「どうぞ」
 ややあって、御厨が返事をした。
「お邪魔します」
 藤堂が室内に入ると、御厨は机に向かって難しそうな雑誌を開いていた。博士前期課程まで修了した御厨である。今でも気になる論文があれば読むようだ。
「何読んでたんですか」
 御厨が読んでいた雑誌を藤堂に寄越した。
「後輩の論文が載ってたから」
「これからするっていうときに後輩の話っすか」
 藤堂が少し拗ねた口調で言い、雑誌を机に置いた。
「きっと優秀な研究者になると思って」
「今は他の人の事なんて考えないでくださいよ」
 御厨の後頭部に手を添えて、口づけをする。はじめは啄むように、やがて、舌で御厨の唇を開け、歯列を割る。舌を絡めると、仰け反るようにしていた御厨が苦しげに眉をひそめた。藤堂は御厨に胸を押されて、名残惜しさを感じながら唇を離す。チュッと音を立てると、御厨は恥ずかしげに顔を伏せた。
 
 自分より10センチ以上も背の高い御厨を抱えてベッドに運ぶ。そのまま押し倒して首筋に口付けた。御厨が藤堂の頭に手を回す。御厨にとって精一杯の甘えに、藤堂は小さく笑った。
「ん」
 息がかかりくすぐったかったのか、御厨が身を捩らせる。
「御厨さん、一回万歳してください」
 藤堂は御厨のカットソーを一気に脱がせた。白く細い腰から痩せ気味の腹へとなで上げる。それから脇腹を甘噛みしていると、再び御厨の手が藤堂の頭に置かれた。少しずつ上へと向かいながらキスを落とす。主張する突起をあえて避け、首筋を一舐めした後、唇を奪う。今度は御厨からも求めてきた。くちゅくちゅと音を立てて互いの口内をまさぐり合う。
 藤堂は肘をベッドについて体を支えると、膝で御厨の中心を軽く押した。上下からの刺激に、御厨の息が上がり始める。藤堂はこぼれた唾液を舐めとった。
「ん」
 御厨がもぞもぞと身体を動かす。ゆるく立ち上がったものを、藤堂の膝に押しつけてた。だが藤堂は御厨が望む刺激は与えない。膝をどけ、左胸に吸い付く。御厨の肌が、ほんのり赤く染まった。
「すっげえバクバクしてるっすね」
 舌先で転がしながら言うと、御厨は身体を震わせた。すかさず、右側を指先で弾く。
「あっ、イキたい。触って」
「御厨さん、めっちゃ感度よくなりましたよね」
 素直に言えたご褒美ですと言って、藤堂は御厨のスエットを下着と一緒に取り払った。先走りで濡れたそれを手のひらで包み込む。全体をゆるゆると扱くと、御厨が熱っぽいため息をついた。鈴口を軽く引っ掻くと、御厨の身体が跳ねる。
「ああ」
 御厨の腰が、強請ねだるように揺れた。藤堂は御厨を一度楽にさせようと強く握り込んで動かす。
「んああ……」
 御厨が低い声で喘ぎながら果てた。

 吐精した御厨の呼吸が落ち着くのを待つ間に、藤堂はベッドの下の収納スペースから籠を引き出す。その中から取り出したローションを手のひらに取り、体温で温める。
 藤堂はそれを指に絡めると、御厨の膝を立たせた。
「もうちょっと開けますか」
 藤堂の言葉に従って御厨が足を開く。腕を顔の上で重ねており、表情は見えない。藤堂にはそれが残念だったが、あまり虐めて機嫌を損ねると、今後に影響しそうだ。
 藤堂が濡らした指をあてがうと、ぎゅっとすぼまった。だが指先を縁に引っ掛けるとすぐに緩む。人差し指一本はさほど抵抗なく飲み込んだ。
「もう一本、行けそうっすね」
 一旦抜き、ローションを足して今度は中指も差し込む。しばらく馴染ませたのち敏感な部分を刺激した。
「ああああ」
 御厨の声が高くなる。触れていない前が、ピクリと反応した。
「そこ、やだ」
「嫌じゃないっすよね」
 藤堂は、右手で御厨を刺激しつつ、左手で自身の準備を進める。
「やだ、おかしく、な、あああああ」
 藤堂が三本目の指を押し込むと、さすがにきついと見えて、御厨が悲鳴のような喘ぎ声を上げた。トントンと藤堂が内側を叩くリズムに合わせるように御厨の身体がピクピクと動く。
 指を受け入れていた部分が十分に緩み、藤堂に絡みつくようになるのを待って、藤堂は指を引き抜いた。己も服を脱ぎ捨てて、屹立したものにコンドームを被せる。
 藤堂が御厨の足を担ぐように持ち上げた。硬度を持ったそれを入り口に押し当てる。
「入れるっすよ」
 宣言して、腰を進めた。御厨の長大なものが腹にこすれて、藤堂は微かな劣等感を抱いた。
「クッ」
 一度に奥まで押し込んだのち、馴染むのを待たずに擦りつける。
「ハッ、ハッ、ハッ」
「あっ、んあっ、うっ、んあああああっ、んんん」
 荒く息をつく藤堂の下で、御厨が苦しげに首を左右に振った。だが、そうしているうちに快感の方が勝ってきたらしく、甘い声を出して藤堂の首にしがみついてきた。
「とうど、もっと、こっち、きて」
 御厨が舌足らずに言って、藤堂を引き寄せる。弾みで内部をかき回された御厨が、首を仰け反らせた。藤堂は抱きしめられて動きが小さくなる。
「先輩。ちょっとだけ、腕、緩めて」
「へ?」
 思考回路がもうまともに働いていないらしい御厨の腕をほどいて、藤堂は伏せていた上半身を起こした。抜け落ちそうなところまで腰を引いて、激しく突くことを繰り返す。御厨の先端からは、先走りが滴っている。
「い、い、イク」
「いいっすよ。俺もそろそろ」
 御厨の言葉に、藤堂は最奥で動きを止め、御厨に手を添えて絞った。先ほどとは比べものにならないほどの勢いで精が放たれる。その衝撃で、藤堂も御厨の中で吐精した。
 
 御厨をもう一度風呂に入れて、ついでに自分も身体を洗い直し、シーツを変えたベッドに御厨を寝かせたのは、すっかり夜も更けた頃だった。
 翌朝、藤堂が朝食の支度を済ませた頃合いに、身体は怠そうなものの機嫌は悪くなさそうな御厨が茶の間に現れた。
「おはようございます。朝飯できてるっすよ」
「食欲ないんだけど」
「駄目ですよ、ちゃんと食べないと。ただせさえ痩せすぎなのに、昨日はカロリー消費したんすから」
 藤堂の言葉に、御厨の機嫌が一瞬で最悪になるのが見て取れた。
「誰のせいだ」
 這うような低音にも、藤堂は動じない。
「拒否しなかったのは御厨さんっすよ」
 御厨の無言は同意や肯定である。それが二人の間の習慣だった。そうなった責任は御厨にある。
 御厨は不機嫌に黙ったまま、用意された朝食に手を付け始めた。

御厨さんと藤堂くん

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