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翌日の放課後、夏由達は廊下の飾り付けに使う角材を組み立てた。
細長い角材に、四本の短い角材を釘で打ち付け、教室のドアの上にある小窓に引っかかるようにする。一つ作ってみたものを、早速夏由たち四組の教室に取り付けてみた。窓枠にくらべて、引っかける部分の幅がやや広い。
「どう」
机の上に立った夏由に、鈴木が声をかける。夏由が角材から手を離して、様子を確認する。
「ちょっとグラグラしてる気がするけど、そっちはどう」
廊下で見ている悠翔と梅田、桧山に訊ねると、悠翔がうーんと唸った。
「外れそうな感じはしないけど、どうだろう。こっちに下がりすぎてるな」
「それに、この後どうやって屋台のテントの幕を付けるかだよね」
桧山もスッキリしない答えだ。
「幕は、廊下側に出てる棒の、横の方に両面テープで付ければ良いと思うけど」
二個のパーツに貼り付ければ良いと梅田が言う。
「それなら、サマになるか」
桧山が同意した。
「材料は、多めに買ってきたんだよね」
遠坂が教室内で散らばった材木を集めながら言う。しばらくして須藤が角材を一本取って夏由に渡した。
「こっちの細い方の、隙間に入る」
「入りそう……入った」
ぐらつきもなく、付け外しにも問題はなさそうだ。
「じゃあ、今作ったのと同じサイズでもう一個作って、この棒で二つを繋げちゃえば丈夫なると思うけど、どう」
「枠の、内側からって事」
梅田が教室に入ってきながら言うと、須藤が頷いた。
「うん、良いと思う。やってみよう」
須藤の案は無事成功した。教室二つ分、あわせて八個のパーツを造り終えたところでその日の作業をお終いにする。幕の部分は、悠翔が後日用意することになっている。
「おつかれ」
「よ」
自転車置き場へ向かう夏由と分かれた悠翔は、校門を出たところで待っていた鳴澤に片手を上げて挨拶をした。
「今日は、バンドはないのか」
「さっきまでやってた」
プロ志望の鳴澤は、他校生とバンドを組んで練習に励んでいる。ギタリストだが、最近はドラムの練習もしているという。
連れだって駅とは反対の方向へ歩く。しばらく歩いたところにある、手軽なイタリアンを謳うファミリーレストランで彦田と待ち合わせをしているのだ。茶道部の練習で遅くなるかもしれないという彦田を待たずに、二人は自分たちの注文を済ませる。
「でもさ、実質あと七日間くらいしか練習できないのはちょっと自信ないな」
ウエイトレスが去ったところで悠翔がぼやいた。
「ダイジョブだって。サビの右手は四分音符だけでも良いから」
鳴澤がリュックからコピー用紙を取り出す。
「でも洋楽だろ。ほとんど聞いたことないし」
渡された楽譜を見るが、悠翔には読めない。かろうじて歌詞の英語が読める程度だ。
文化祭で一曲一緒に演奏しないかという話しが悠翔たち三人の中で持ち上がったのは昨日のことだった。初心者の悠翔と、多少の経験がある彦田がギターを、鳴澤がドラムを担当することになった。
「で、ボーカルはあいつを巻き込んでも、ベースはどうするんだよ」
「ベースは一人話を付けてある」
彦田が連れてくると鳴澤が言った。
「お待たせ」
程なくやってきた彦田が連れてきた人物を見て、悠翔は絶句した。
「久しぶり、かな」
「郁恵、先輩」
それは悠翔の交際相手、岡本郁恵だった。