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二年生は、二学期の期末試験を他学年より一週間早く、十二月の一週目に行う。その翌週が修学旅行だ。
準備不足のまま試験当日を迎えた夏由は、最初の科目である数学で早くも落ち込むこととなった。休み時間は、最後のあがきで単語帳やノートを見るものが多い中、夏由はぼんやりと過ごしている。悠翔はと思い姿を探す。自分の席で予備校のものらしい参考書を読んでいた。二ヶ月前の中間試験の時には、鳴澤や彦田も交えてだらだらと喋って時間を潰していたのが嘘のようだ。鳴澤も彦田も、ノートを見返すなどしている。夏由は一人取り残された気分になった。
次の教科で夏由は、時間を半分ほど残したところですっかり諦めてしまった。四択問題だけは適当に回答欄を埋めたが、記述問題は簡単なものを数問だけ答えて残りは白紙にした。頬杖をついて周囲から聞こえるシャープペンを走らせる音や問題用紙をめくる音を聞く。残り時間の十分前、今までならば答えを書く音も少なくなってくる時間だが、今日は最後まで粘る人が多いらしい。みなが受験を意識し始めている証拠のように夏由は思った。
「終了。鉛筆を置けよ」
チャイムと同時に監督をしていた教師が声をかける。解答用紙の回収が済み教師が教室から出ると、全然だめだったとう声があちこちから聞こえた。しかしそのどれもがやるべきことはやったという自信が感じられる。その雰囲気から逃げるように、夏由は廊下に出た。
夏由は苦戦して四日間の日程を終えた。歴史だけは最後まで解ききったものの、ほかは多くても七割しか回答欄を埋めていない。
「時城、鳴澤たちファミレスに行くって言うけど、どうする」
晴れ晴れとした顔の悠翔に声をかけられ、少し気後れを感じながらも夏由は頷いた。
「俺は、今回はまあまあ自信あるかな。時城は」
希望進路を考え直している最中であるが、予備校には通い続けている悠翔が聞いてくる。夏由は無言で視線をそらせることで返事に変えた。察したらしい悠翔があーあとう顔をする。
「岡田はさ、進路のこととか、親とは話してるの」
夏由は何気なさを装って悠翔に訊ねた。面談以来、夏由は両親からの小言に不機嫌になってばかりいた。
「あー、まあ話しないわけにはいかないからな。金は、出して貰う立場ではあるし」
悠翔が歯切れ悪く言う。
「経済学部っていうのは、話した。話したら、納得してくれたと思う。できれば奨学金は狙いたいから、成績は上げておきたいんだ」
「そっか」
きちんと考えていて偉いなと夏由は思った。
週明けの月曜日に全教科の答案が返された。夏由の結果はほぼ予想通りの点数だったが、歴史だけは思っていた上の得点で、平均点を大きく超えた。
火曜日は修学旅行の注意点を改めて説明されて、四時間目までで下校となった。
翌日からは、いよいよ修学旅行である。