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幸せの形

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 今日は豚肉が特売だ。
 チラシに載ったその情報のおかげか、スーパーの精肉コーナーはいつもより客が多かった。
 バックヤードでは、しゃぶしゃぶ用にスライスする作業が急ピッチで進められている。
「残業かな」
「ほら、しっかり手を動かして。私らじゃそっちのスライサーは使えないんだから」
 ぼやく男性社員の時城に、パートの女性が叱咤する。去年、他店舗から都内の店舗に異動してきた、どことなく頼りないこの社員を、精肉コーナーのベテランパート達は何かと構いたがった。
「残業代稼いで奥さんを楽させてやんなさいよ」
 独身なんだけどなと、時城は苦笑した。
「中番の人たちはそろそろ上がりでしょう。時間見て上がってください」
「あ、時城さん、私ちょっとくらい残業できますよ」
 パートの一人が気を遣いように言った。
「中里さんは扶養内でしょう。大丈夫だから上がってください」
「そう? じゃあ上がらせて貰うわね」
「夕方のバイトさんもいますから」
 騒がしいが手も速いパート達が出ていくと、途端にバックヤードは静になる。品出しをメインにおこなう高校生も、包丁を扱ったりラップを巻いたりする大学生も、社員とお喋りするようなことはない。
 せいぜい友人同士でボソボソと話す程度だ。時城も黙々と手を動かす。
 一時間の残業を終えて従業員通用口を出た時城は、外の暑さにうんざりした。店舗入口へ回る間に、じっとりと汗をかく。今日の夕飯にしようと思っていた特売の豚肉は既に売り切れている。
 最近この店でアルバイトを始めた年の離れた義弟と甥に、精のつくものでも食べさせたかった時城は、少し奮発してスペアリブに手を伸ばした。冬瓜と一緒にスープに仕立てても旨いが、タレを絡めて焼くほうがいいだろう。
 時城がレジにいた義弟を夕飯に誘うと、義弟は嬉しそうに頷いた。
「上がりが一緒なんで、ナツにも声をかけておきますよ」
 彼らに息子に対するような愛情をむけられることが、時城の幸せだった。

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