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蝉が鳴いている。
喬はブランコの前の柵に腰掛けたまま、空になったペットボトルをゴミ箱に投げ入れた。
「ナイスシュート」
裕弥の声に、喬は片手をあげた。ブランコに座っている裕弥は、ボタンを四つ開けた胸元を汗で濡らし
ている。
真夏の太陽は容赦なく少年たちの肌を焦がす。
児童公園のゴミ箱は、ペットボトルや空き缶、アイスのゴミと暑さとで悪臭を放っている。
「帰んのだりぃな」
「ここにいるのも暑いけどな」
裕弥の呻きともつかない声に、喬はため息交じりに答える。
終業式の後、学校の近くのカレー専門店で食事をた帰りである。先ほど、大通りを挟んだ地下鉄の駅に、クラスメイトがふらふらと吸い込まれていくのを二人は見ていた。
「涼しいとこに行こう」
「図書館」
「もっと近くがいい」
「じゃあコンビニ。スポドリもう一本買いたい」
「俺も買うわ」
喬が立ち上がると、裕弥もブランコから降りた。
交差点の角にある児童公園とカレー専門店の間にコンビニエンスストアはある。汗をかいた身体が冷
房で冷やされた。二人はほっと息をつく。
「海行きてーな」
裕弥が雑誌コーナーの前で言った。旅行雑誌のみならず、ラックに並んだ雑誌の表紙は、夏休みにオススメの観光地を伝えている。海水浴を特集している雑誌を、裕弥はパラパラめくった。
「せめてプール」
「山のほうが涼しそう」
涼しげな緑を写した表紙を見て喬が言う。
「えー、山遠いじゃん」
「海も、泳げるところは遠いんじゃないの」
「だから、せめてプールだって。プールなら都内だし電車で行ける」
喬は話を切り上げて、ガラス扉がついた大きな冷蔵庫の前に移動した。乱暴に雑誌をラックに戻して、裕弥が喬を追いかける。
「なあ、プール行こうぜって」
「ああ、分かったって。他には誰を誘う」
根負けした喬が頷く。
蝉がうるさいくらい鳴いている。
明日から、夏休みが始まる。