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1章-1

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五月。
 望は従姉の結婚式に参列していた。チャペル風の建物での挙式が終わり、披露宴の会場へ移動した。親族控え室に入ると、見覚えのある男が座っていた。男は望を見ると、片方の眉を少し上げただけで何も言わずに伯父のところへ向かった。
「このたびはおめでとうございます」
「どうも、お越し頂きありがとうございます」
 伯父は軽く会釈をしたが、その隣で伯父嫁はしかめっ面をした。
「誠人兄さん、まったくこんなところで何してるのよ。もうお式は済んだわよ」
「すまんすまん、ちょっと時間を間違えちまってな」
 似合わない礼装の襟を窮屈そうに弄りながら男が答えた。繁華街で会ったときとは違い、髭をあたり髪もきっちりと結んでいる。
「ああ、裕子ちゃん。立派な姿だね」
 伯父嫁の小言をから逃れるためか、男は挨拶に回っている新婦に声を掛けた。
「伯父さん、久し振りね。今日は来てくれてありがとう」
「どういたしまして。式に遅れて申し訳なかったな」
 裕子は小さく首を振った。
「いいのよ。伯父さんだもん」
「まったく兄さんはだらしないんだから。いつも肝心なときに……」
「まあまあ、おめでたい席なんだしその辺で。皆さんもいらっしゃるし」
 伯父が間に入って無意味に手をパタパタと上下させた。伯父嫁はまだ不満そうだったが、仕方なさそうにため息をついた。あえて見ない振りをしていた親族達の緊張が緩む気配がした。望も知らず知らずのうちに詰めていた息をほっと吐き出す。
 裕子が望の両親へ挨拶に来た。両親が口々に裕子を褒めるが、望はわざわざ挨拶するのも照れくさく、側で黙っていた。
「望くんも、わざわざ東京からありがとう。あ、伯父さん、従弟の望くんよ。こちらは母のお兄さんで誠人伯父さん」
 裕子が双方を紹介した。
「藤瀬誠人です。君のお父さんとは従兄弟同士なんだ」
「……大橋望です」
 初対面であると装う誠人に合わせて、望も振る舞う。
 話の接穂がなく戸惑っているうちに、会場のスタッフが参列者を案内するために入ってきた。

 披露宴は、華やかな雰囲気の中お開きとなった。裕子が両親への手紙を読む姿に、望の母親もハンカチを目元に当てていた。
 会場を出た望は両親に断ってトイレへ向かった。偶然か、誠人も付いてくる。用を足した望が手を洗っていると、隣の手洗い場に誠人が立った。
「お前さんやっぱり善行の倅だっただった」
 「善行」とは望の父親の実家のある町のことである。年輩の親戚の中には望の祖父や父親を「善行」と呼ぶものもいる。
「オジサンが裕子姉さんの伯父さんだとは思わなかった」
「そりゃそうだろ。会ったこともないしな」
「そうだけど。そういえば、やっぱりって」
 誠人の言葉を望は蒸し返した。
「善行の爺サンに目元が似てると思ってたんだよ」
 細い吊目だろ、と誠人は濡れた手を振りながら言った。どうやらハンカチを持っていないらしい。望は使用済みだが貸そうかと迷った。
「あぁ、これでいいや」
 誠人は礼服のポケットチーフを無造作に引き出して手を拭く。望は中途半端に差し出しかけたハンカチをポケットに押し込んだ。
「で、どうだい。あの後、彼女は出来たのか」
「出来てないし、あの二人だってそういうつもりじゃないし」
「なんだ。アソビか。お前さん、結構アソんでるのかい」
 うんうんと誠人は一人で納得している。
「ちょっとメシ食うくらいで遊んでるとかいわれるのも」
「別に。お前さん大学生だろう。大学時代はアソビを覚える時期だろうよ」
 思いがけない言葉に、望は立ち去りかけた足を止めた。
「まあ、お前さんは随分とアソビが下手なようだがな」
「余計なお世話だよ」
 揶揄うような誠人の口調に、望はむっとして答えた。そのままきびすを返す。
「なあ、オジサンが教えてやろうか」
 背後から耳元に囁きかけられ、望はビクリと肩を震わせた。誠人はその肩越しに、一枚の名刺を望の胸ポケットに滑り込ませた。

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