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夏由は障害物走を、かろうじて最下位にならずに終えた。
席に戻る前に購買部が出している売店に立ち寄る。
「アイスボックスふたつと、オレンジジュース。時城は」
割り込んできた声に、夏由はハッと顔を向けた。悠翔が小銭を出している。
「リンゴジュース」
夏由がポケットに突っ込んでいた小銭入れをもたもたと出すあいだに、悠翔が支払いを終えた。アイスボックスとペットボトルを渡してくる。夏由が代金を渡そうとするのを、悠翔は笑顔で断った。礼を言って夏由が小銭を引っ込める。
並んで校庭の端、校舎の陰に腰を下ろす。まとわりつくような暑さが、少しだけ緩む。
悠翔がアイスボックスにオレンジジュースを入れた。夏由も同じようにする。夏の定番の飲み方だ。
「あれからさ」
悠翔が、珍しく静かな口調で言った。
「俺なりに考えたんだけど。時城は、俺のことを恋愛的な意味で好きって言う意味で合ってるよな」
修学旅行の時に、中途半端になっていた話だ。
誰も触れなかった話題を、悠翔が持ちかけてきた。
夏由は緊張に生唾を飲み込んだ。
「うん」
やっとの事でそれだけ返す。
「今でも」
「うん、好き。ごめん」
夏由が言うと、悠翔が小さくため息をついた。それから、オレンジジュースを呷る。夏由はそれを横目で見た。仰向いた顔の下で上下する喉仏。悠翔が視線だけを向けてきたので、夏由は目をそらしてリンゴジュースを啜った。
「そっか。俺は、またちゃんと時城と友達に戻りたいって思ってるんだけど、無理な感じ?」
悠翔の問いかけに、夏由は答えられなかった。夏由は、悠翔と視線を合わせることを避た。
「俺は、時城は良いやつだと思ってるし、いい友達でいられたらって思うんだけど」
夏由が望んでいるのは、悠翔と付き合うことだ。友達とは違う関係。
しかし、それを口に出せば、もう悠翔とは話すことすら出来ないだろうと夏由は思った。
校庭の中央で歓声が上がった。二年生の団体競技が盛り上がっているらしい。
「好きでいて続けて良いなら」
その歓声に紛れるように、夏由が言った。
悠翔が、何?というように顔を向けてくる。
それでも、今までのように側にいることを許されるのならば。
夏由は、自分の望みを諦める覚悟をしようと思った。
「岡田のことを好きだっていう気持ちでいていいなら、友達でもいい」
頑張って笑って、夏由が答えた。
安心したような悠翔の笑顔が、夏由には辛かった。