短編

BL

義兄との話

 姉さんの葬儀が済んだその夕方、義兄さんと僕は慰め合った。線香の匂いの染みついた義兄さんの身体は、汗で少し冷たかった。  慰めが必要だったのは、もしかすると義兄さんの方だけだったかもしれないし、どちらにも必要はなかったのかもしれない。  ただそうすることが、そのときの僕たちには自然なことだった。
短編

道しるべ

十数年振りに父の郷里へ来た。区画整理されすっかり新しくなた道路に□□は戸惑う。大まかな方角を頼りに車を走らせると、不意に古くからある通りに行き当たりほっとした。公民館の在処を示す案内板は朽ちかけている。  元の米屋の角を曲がって、豆腐屋の三...
短編

日常1 或る朝

目覚まし時計代わりのスマホのアラームが鳴った。薄目を開けて周囲を見る。代わり映えのしない光景。半ば開いたカーテンの外はまだ薄暗い。古い磨りガラスの窓のおかげで、街の風景はいつでも滲んで見える。  スマホがアラームを鳴らし続ける。停止ボタンを...