雨が止む頃

雨が止む頃 5

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 三上がレトルトのお粥を温めているうちに、弘哉はスマートフォンを手に持ったまま眠っていた。
 手の中でスマートフォンが鳴っているが、弘哉は気がつかない。三上はスマートフォンを取り上げると、着信を確認した。三上の知らない名前が表示されている。
「もしもし」
 勝手に電話に出る。
「もしもし……?」
 声が違うことに気がついたらしい相手の、戸惑う気配がする。
「あ、おれ木戸の知り合いの三上と言いますが」
「弘哉くんは」
「ちょっと体調悪いみたいで寝てるんですが、起こしましょうか」
「やっぱり。いや、居場所が分かれば大丈夫だから。迷惑掛けて申し訳ないね」
 相手の言い方に、三上は相手が誰だか気がついた。
「もしかして、木戸の同居している……」
「そうです、高杉です。今は、大学かな」
「いえ、俺ん家です」
「そうか、弘哉くんのこと迎えに行こうかと思うんだけど」
 三上はどう返事するべきかを迷った。弘哉が無理をしてまで登校した理由をまだ聞いていない。
「起きたら連絡くれるように伝えてくれるかな。今日は一日出られるようにしておくから」
「分かりました。伝えます」
 高杉は礼を言って電話を切った。三上はスマートフォンをベッドの上に置く。それからキッチンに立ち、小鍋に湯を沸かし始めた。

 三上に起こされた弘哉は、黙ってお粥を食べると買ってきた風邪薬を飲んだ。三上は買い置きの冷凍チャーハンを食べている。
「さっき、高杉って人から電話来てた。勝手に出て悪かったな」
「何か言ってた」
「迎えに来るから連絡しろって」
 弘哉はベッドまで戻ると、スマートフォンを確認した。何度も来ていたメールや着信は、三上が対応して以降なくなっている。
「お前さあ、今日なんか大事な授業でもあった」
 三上の質問に、弘哉は首を振った。
「ううん、なんで」
「何でって、じゃあなんで無理して大学ガッコー来たんだよ」
 頬杖をついて何気なさを装っているが、今の三上は誤魔化すことを許さなそうだ。世話を掛けた手前、弘哉も嘘をつくつもりはない。
「これ以上余計な迷惑を掛けたくなかったから」
「風邪引いた同居人を心配すんのが余計な迷惑かよ」
「だって、一人暮らしをしてたところに転がり込んだだけでも迷惑掛けてんのに」
 弘哉は眉をぎゅっとひそめた。
「出先で倒れる方が迷惑だって。それに、同居人、高杉さん? その人には迷惑掛けられなくて、俺には良いわけ」
「それは、悪かったけど」
 三上は一瞬だけ弘哉のことを睨み付けると、表情を崩した。
「ま、貸し一つな。今日は俺もサボれる授業だけだったし」
「バイトは」
「夕方からだから平気」
「じゃあそれまでには帰るよ」
「別にいても良いぜ。動くのしんどいだろ」
 高杉さんに電話だけはしておけよと言って、三上はスマートフォンをいじり始めた。
 
 夕方、少し気分が良くなった弘哉は、一人で地下鉄に乗り込んだ。帰宅ラッシュ前の時間帯であったため、どうにか座席が確保できた。昼間は止んでいたメールや着信が、再び来ている。全て清也からだ。



『雨が止む頃』

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