ひとしれずこそ2章

4 提案を受けて

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 二組の鈴木がスケッチブックを取り出した。
「教室の中は、企画も違うからそれぞれのクラスで決めて、廊下だけお揃いにする感じで考えてみたんだけど」
「縁日っぽく、屋台みたいにしてみた」
 遠坂が付け足す。
 スケッチブックに描かれていたのは、教室のドアを外して、上に屋台のテント風の飾り付けをしたイラストだった。ドアとドアの間には、屋台が並んでいるような絵も描かれている。
「ドアのところに少し飛び出すように布を貼って、後は縁日っぽく屋台がいっぱいあるような感じでどうかな」
 鈴木の説明に、四組の須藤と梅田も頷いている。
「ウチらはメッチャいいと思うんだけど」
「これ、教室二個分やったらすごくない」
 遠坂の言葉に桧山もはしゃいだ声を出した。
 夏由は、コーラをストローで啜りながら、女子の会話をただ聞いている。
「これ写メっていいかな。ウチのクラスに回して、これにするか、別の案を出して話し合うかで聞いてみる」
「いいよ」
 須藤が携帯電話を取り出した。
「男子の方はそっちでやってね」
 夏由と悠翔の方を見て須藤が指示を出す。悠翔が携帯電話を出そうとしないので、夏由がスケッチブックの写真を撮った。
「あ、でも全員分はメアド知らないや。半分くらいしか」
「じゃあ、時城がメアド知らない人は俺が送るから」
「うん」
 夏由は携帯電話を操作して、クラスの男子のメールアドレスにまとめて写真と話し合いの内容を送る。二回でその作業は終わり、最後にメールを送らなかった相手の名前とともに悠翔の携帯電話に送信した。
「了解。お前のメアドに返事して貰うことにするから、集計しておいて」
 悠翔が残りの相手に写真を転送し終える頃には、女子は早速返事がきはじめているらしかった。

 翌日の午前中には、全員からの返事が集まった。多数決の結果、四組が二組の案に乗る形で、廊下の飾り付けを揃えることに決まった。四組の廊下の飾り付けは、このまま夏由たちが担当する。そこで、放課後の教室で、夏由たち四人が話し合うことになった。
 教室内の飾りは、女子が中心となって別に行われる。
「でもさあ、実際にはどうすんのよ。本物の屋台みたいに鉄パイプとかを組むわけにはいかないでしょ」
 須藤が言った。鈴木は具体的な飾り付けの方法までは考えていなかったのである。
「段ボールで枠を作る、とか」
 悠翔が提案するも、自信なさげだ。
「それだと弱いと思う」
 梅田も否定的である。
「だよなあ。でも丈夫にすると重くなるし。そもそもドア枠の上、だろ」
 全員が教室のドアを見る。二枚の戸板からなる引き戸という、ごく普通の作りだ。上には同じ作りの小窓がついている。
「上の小窓の枠に布を貼ったらそれっぽいかな」
「それだとイメージとは違くないか」
「ただの目隠っぽくなると思う」
 夏由の案もパッとしない。
「お祭りの屋台だよね。写真とかあれば参考になると思うけど」
 梅田がぼやく。
「写真。あ、写真だよ」
 悠翔がパンと手を叩いた。
「俺夏休みに彦田たちと夜店に行ったときの写真があるわ。あいつらにあげる用の焼き増ししたの忘れてた。月曜日に持ってくるから」
 須藤と梅田の表情が明るくなる一方、夏由は自分が誘われもしなかった事にショックを受けていた。
「ウチの近所の神社の祭りだけど、屋台は結構出てて、本物のテキ屋がやってるから雰囲気もあって楽しいんだ」
「へえ、行ってみたいな。岡田くん家って近いんだっけ」
 梅田がなにげなさそうに聞く。
「学校からだと、自転車で三十分くらいかな。地下鉄だと乗り換え一回だし、近いと言えば近いよ」
 悠翔の答えに、梅田が身を乗り出した。
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